演目と配役
四世鶴屋南北 作
奈河彰輔 脚本・演出
市川猿翁 演出
慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)
三代猿之助四十八撰の内 伊達の十役(だてのじゅうやく)
十代目松本幸四郎十役早替り宙乗り相勤め申し候
発 端 稲村ヶ崎の場
序 幕 鎌倉花水橋の場
大磯廓三浦屋の場
三浦屋奥座敷の場
二幕目 滑川宝蔵寺土橋堤の場
三幕目 足利家奥殿の場
同 床下の場
四幕目 山名館奥書院の場
問註所門前の場
同 白洲の場
文化12(1815)年7月、七世市川團十郎が初演した鶴屋南北作『慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)』は、伊達騒動に登場する善悪男女の十役を一人で演じ分ける破天荒な舞台であった。しかし台本は現存せず、わずかな資料と現在の伊達騒動をもとに昭和54(1979)年に奈河彰輔と市川猿翁(三代目猿之助)がつくり上げたのがこの狂言である。40数回の早替り、宙乗り、屋体崩しなど、猿之助歌舞伎の集大成の舞台で、幸四郎は染五郎時代に猿翁の指導を受けて博多座でも上演している。 開幕すると幸四郎が裃姿で舞台に登場し、これから演じる十役の写真を使って、あらすじと個々の人物紹介をする。続く発端の「稲村ヶ崎」は、足利家の重臣 仁木弾正が、処刑された 赤松満祐の亡霊から鼠の妖術を伝授される話と、それを物陰から見る元足利家の家臣の 絹川与右衛門の姿を見せる三役早替りが見もの。 序幕は 足利頼兼の放蕩を描いた場で、頼兼は大磯の遊女 高尾太夫の色香に迷い廓通いを続けている。弾正は頼兼の叔父の大江鬼貫と結んで、頼兼暗殺を企て若君鶴千代を暗殺する毒薬を手に入れた。その手先が小悪党の 土手の道哲である。一方、与右衛門は、足利家を守るため女房累の姉である高尾太夫を殺害する。「三浦屋奥座敷」では、殺す与右衛門、殺される高尾、道哲の早替りが見ものである。 二幕目の「宝藏寺土橋堤」では高尾の恨みで顔が醜くなる累の悲劇を描き、最後は「だんまり」という様式美に溢れた歌舞伎演出で幕になる。 三幕は一転して、 乳人の政岡が単身で主君鶴千代を守り抜く姿を描いた有名な「御殿」になる。政岡は女方きっての大役で、悲しみに堪えて忠義一筋に生きる烈女の姿を演じる。幸四郎が女方の大役を演じる。続く「床下」では 荒獅子男之助の勇壮な荒事の後に、仁木弾正の宙乗りでの引込みになる。役柄の違う三役の演じ分けが大きな見ものだ。 四幕目の「奥書院」は颯爽とした捌き役の 細川勝元、与右衛門、道哲を早替りで見せ、「白洲」では弾正の大立廻りと、妖術で屋体崩しになるスペクタクルが見もの。最後は弾正の妖術が敗れ、悪は滅びて足利家は安泰になる。 ストーリーがわかりやすく、スピード感にあふれ、スペクタクルに富んだ舞台である。
口上 |
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仁木弾正 |
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絹川与右衛門 |
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赤松満祐 |
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足利頼兼 |
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土手の道哲 |
染五郎改め松本 幸四郎 |
高尾太夫 |
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腰元 累 |
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乳人政岡 |
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荒獅子男之助 |
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細川勝元 |
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八汐 |
片岡 仁左衛門 |
大江鬼貫 |
中村 鴈治郎 |
沖の井 |
片岡 孝太郎 |
松島 |
市川 笑 也 |
京潟姫 |
中村 壱太郎 |
山中鹿之助 |
大谷 廣太郎 |
新造薄雲 |
澤村 宗之助 |
同 小紫 |
市川 笑三郎 |
渡辺外記左衛門 |
松本 錦 吾 |
山名持豊 |
市川 猿 弥 |
栄御前 |
中村 魁 春 |
渡辺民部之助 |
中村 梅 玉 |
三浦屋亭主 |
幸四郎改め松本 白鸚 |
近松門左衛門 作
平家女護島
一、俊寛(しゅんかん)
享保4(1719)年に近松門左衛門が書いた時代浄瑠璃『平家女護島』の二段目。平家討伐の企てが顕れて鬼界ヶ島に流された俊寛の物語で、同名の能を素材にしている。 前半は飢えと孤独に苦しむ俊寛の姿、流人仲間の成経が島の乙女千鳥と恋仲になった話を聞いて、妻東屋を思い出す俊寛の人柄を描く。赦免船が着いてからは一人帰国を許されぬ俊寛の絶望、平重盛の情で帰国がかなうと知った喜び、東屋が殺されたと聞き、身を犠牲にする俊寛の心の動きを綴っていく。船を見送って呆然とする幕切れに人間の煩悩の深さが見える。
俊寛僧都 |
片岡 仁左衛門 |
丹波少将成経 |
中村 鴈治郎 |
海女千鳥 |
片岡 孝太郎 |
平判官康頼 |
市川 猿 弥 |
瀬尾太郎兼康 |
坂東 彌十郎 |
丹左衛門尉基康 |
中村 梅 玉 |
二代目松本白 鸚
二、 襲名披露 口上(こうじょう)
十代目松本幸四郎
一座の幹部がそれぞれの家独自の色を染めた裃を着て着座し、襲名のお祝いを述べる一幕。歌舞伎の芸が次の世代に受け継がれていくめでたさを示している。
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幸四郎改め松本 白 鸚 |
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染五郎改め松本 幸四郎 |
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坂田 藤十郎 |
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幹部俳優出演 |
河竹黙阿弥 作
新皿屋舗月雨暈
三、魚屋宗五郎( さかなやそうごろう )
河竹黙阿弥が明治16(1883)年に書いた『新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)』の後半を独立させた狂言。
旗本磯部家に奉公していた妹のお蔦が姦通の罪で手討になったと聞き、一家は悲嘆にくれている。実直で分別のある宗五郎はいきりたつ家族を抑えてきたが、お蔦の同僚のおなぎから妹が無実だったと聞き、禁じていた酒に手を出し酒乱になっていく。その様子を黒御簾音楽と周囲の役の動きで写実的に見せていく。綿密に計算された世話物の演技演出が見もの。「玄関先」では幸せだった昔を振り返る宗五郎の長ぜりふが聞きもので、庶民の生活感が浮かび上がる。
魚屋宗五郎 |
幸四郎改め松本 白 鸚 |
磯部主計之助 |
大谷 友右衛門 |
召使おなぎ |
市川 高麗蔵 |
小奴三吉 |
中村 亀 鶴 |
菊茶屋娘おしげ |
中村 壱太郎 |
鳶芳松 |
大谷 廣太郎 |
菊茶屋女房おみつ |
上村 吉 弥 |
父 太兵衛 |
松本 錦 吾 |
浦戸十左衛門 |
坂東 彌十郎 |
女房おはま |
中村 魁 春 |
福地桜痴 作
四、新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)
明治26(1893)年初演の福地桜痴作、杵屋正次郎作曲の長唄舞踊。江戸大奥の鏡ひきの日に女小姓弥生が獅子の舞を舞うという趣向で、前段は可憐な姿で川崎音頭を踊り、御殿女中が花見を楽しむ心で花から青葉に移る田舎の風景を描く。その後塗扇を手に満開の牡丹が咲く情景、花に戯れる獅子の姿を見せ、祭壇に備えた獅子頭を手に舞い始めるが、獅子頭に獅子の精が宿り、弥生は引きずられて花道を引っ込む。後段は二人の胡蝶の精の踊りの後、獅子の精が現れ豪快な狂いを見せる。前半の女小姓と後半の獅子の精の踊り分けが見もの。
小姓弥生後に獅子の精 |
染五郎改め松本 幸四郎 |
局吉野 |
市川 笑 也 |
老女飛鳥井 |
市川 笑三郎 |
胡蝶の精 |
澤村 宗之助 |
胡蝶の精 |
中村 壱太郎 |
用人関口十太夫 |
大谷 廣太郎 |
家老渋井五左衛門 |
市川 猿 弥 |