演目と配役
近松門左衛門歿後三百年
近松門左衛門 作
一、平家女護島(へいけにょごのしま)
俊寛
歿後300年、近松門左衛門が描いた時代物の名作
絶海の孤島、鬼界ヶ島に流された俊寛。平家打倒の密議が露見し、丹波少将成経、平判官康頼とともに流罪となり、3年が経ったある日、島で出会った海女の千鳥と成経が夫婦になるというので、皆でささやかな祝言を挙げます。そこへ水平線の彼方から船影が。そろって都へ帰れると喜びあうのも束の間、赦免船から現れた瀬尾太郎兼康が読み上げるなかに、俊寛の名前がなく…。
享保4(1719)年に大坂竹本座で人形浄瑠璃として初演し、翌年には歌舞伎として上演された『平家女護島』。この鬼界ヶ島の場面は屈指の人気を誇り、幕開きの憔悴した姿から断崖絶壁での象徴的な幕切れまで、俊寛の姿は観る者の胸を打ちます。歿後300年を迎えた名作者、近松門左衛門のドラマ性あふれる名作をどうぞご堪能ください。
俊寛僧都 |
菊之助 |
丹波少将成経 |
萬太郎 |
海女千鳥 |
吉太朗 |
平判官康頼 |
吉之丞 |
瀬尾太郎兼康 |
又五郎 |
丹左衛門尉基康 |
歌 六 |
松岡 亮 脚本
二、音菊曽我彩(おとにきくそがのいろどり)
稚児姿出世始話
歌舞伎の様式美あふれる祝祭劇
紅葉に彩られた箱根山。菊売りの姿に身をやつした曽我一万と箱王がやって来ます。参詣に訪れていた工藤左衛門祐経と対面した二人は、父の敵である工藤に対し、箱王は血気にはやり、一万や朝比奈が止めようとしますが…。
鎌倉時代に実際に起きた曽我兄弟の仇討ちの物語は、江戸歌舞伎において祝祭劇として多くの作品が生み出されました。曽我十郎と五郎の兄弟が、幼名である「一万」と「箱王」として登場する本作は、新たな着想のもと、所作事から対面となる古式ゆかしい曽我狂言をご覧に入れます。
曽我一万 |
尾上右近 |
曽我箱王 |
眞 秀 |
小林朝比奈 |
巳之助 |
秦野四郎 |
橋之助 |
化粧坂少将 |
左 近 |
鬼王新左衛門 |
芝 翫 |
大磯の虎 |
魁 春 |
工藤左衛門祐経 |
菊五郎 |
岡本綺堂 作
江戸の口碑に残る大岡政談
三、権三と助十(ごんざとすけじゅう)
神田橋本町裏長屋
大岡政談から生まれた新歌舞伎の人気作
駕籠舁(かごかき)の権三と助十が暮らす裏長屋では、夏恒例の井戸替えが行われています。ところが、権三が参加していないことに助十が腹を立て、言い争いが始まる始末。そんな騒がしい長屋へ、小間物屋の彦三郎が家主の六郎兵衛を訪ねて来ます。強盗殺人の罪で入れられた牢で死んだという父の汚名を晴らすため、大坂から駆けつけてきた彦三郎の話を聞いた権三と助十の二人は、事件の夜に真犯人とおぼしき男を目撃していたという…。
大正15(1926)年に歌舞伎座で初演された『権三と助十』。名奉行・大岡越前守が難事を解決するおなじみの「大岡政談」を題材に、江戸の市井に生きる庶民を活写した人気作。喜劇味と推理劇の味わいが心地好い新歌舞伎の傑作をお楽しみください。
権 三 |
獅 童 |
助 十 |
松 緑 |
助 八 |
坂東亀蔵 |
権三女房おかん |
時 蔵 |
小間物屋彦三郎 |
左 近 |
左官屋勘太郎 |
吉之丞 |
猿廻し与助 |
松 江 |
石子伴作 |
権十郎 |
小間物屋彦兵衛 |
東 蔵 |
家主六郎兵衛 |
歌 六 |
泉 鏡花 作
成瀬芳一 演出
一、婦系図(おんなけいず)
本郷薬師縁日
柳橋柏家
湯島境内
切ない別れが時代を超えて胸を打つ、泉鏡花の代表作
ドイツ語学者の早瀬主税(ちから)は、元は柳橋芸者のお蔦と人目を忍んで世帯をもっています。恩義ある師の酒井俊蔵にも内証にしていたお蔦との仲。ところが、雨模様の本郷薬師の縁日で騒動を物陰からうかがっていたところを酒井に見咎められると、柳橋柏屋の奥座敷で主税は激しく詰問されます。芸妓の小芳がとりなすのも聞かず、酒井は主税に「俺を棄てるか、婦(おんな)を棄てるか」と迫ります。掏摸(すり)を働く少年から学者に育て上げてもらった恩義を感じ、「婦を棄てます」と主税は答えますが…。月明かりの美しい晩、別れ話を切り出す決意を固めた主税は、お蔦を湯島天神へと誘います。
泉鏡花の代表作の一つ『婦系図』は、明治41(1908)年新富座での初演以降、新派珠玉の名作として数多の名優たちにより磨き上げられてきました。早瀬主税とお蔦の別れを描く「湯島境内」は元々の原作にはなく、劇化されて以降に鏡花自身により戯曲として書き下ろされた、抒情あふれる名場面です。主税とお蔦の切ない別れが時代を超えて胸を打つ、注目の舞台にご期待ください。
早瀬主税 |
仁左衛門 |
柏家小芳 |
萬 壽 |
酒井俊蔵 |
彌十郎 |
お蔦 |
玉三郎 |
竹柴潤一 脚本
坂東玉三郎 監修
今井豊茂 演出
二、源氏物語(げんじものがたり)
六条御息所の巻
愛執に狂う六条御息所、その情念
時は平安の世。光源氏との子を身籠る葵の上は、謎の病に臥しています。物の怪や生霊による祟りを疑い、左大臣と北の方は比叡山の僧に修法を行わせます。すると、護摩を焚く僧が煙の中に感じ取ったのは、賤しからざる身分の女の気配…。光源氏は、生まれながらの気品と美しさを兼ね備え、愛人としている六条御息所のもとを訪れます。花見や連れ舞に興じ、久方ぶりの再会を喜ぶ二人。宮中の忙しさゆえの疎遠を詫びる光源氏でしたが、六条御息所は葵の上やその懐妊を嫉み、詰(なじ)ります。光源氏が堪えかねて屋敷を去ると、六条御息所は悲しみに暮れ、次第に嫉妬に狂って…。
千年の長きにわたり日本人に愛される「源氏物語」。このたび、紫式部による五十四帖に及ぶ長大な全篇のうち、光源氏とその妻・葵の上、六条御息所の三者の恋愛模様を「六条御息所の巻」として新たに描きます。六条御息所が葵の上に抱く激しい嫉妬、凄艶な女心の模様、かなわぬ恋の哀切…。美しく、そして儚い「源氏物語」の世界をお楽しみください。
六条御息所 |
玉三郎 |
光源氏 |
染五郎 |
葵の上 |
時 蔵 |
左大臣 |
彌十郎 |
北の方 |
萬 壽 |