演目と配役
六世中村歌右衛門 二十年祭
七世中村芝 翫 十年祭
川口松太郎 作
大場正昭 演出
一、お江戸みやげ(おえどみやげ)
ユーモアと哀歓に満ちた心温まる人情物語
梅の花ほころぶ湯島天神。茶店では、常磐津文字福と角兵衛獅子の兄弟が和やかに話をしています。そこへ入れ違いにやって来たのは結城紬の行商人、倹約家のお辻と金勘定にも大らかなおゆう。おゆうに誘われ、江戸みやげにと見物した境内の宮地芝居で、お辻は人気役者の阪東栄紫に心奪われてしまいます。すっかり舞い上がってしまったお辻は、その晩、栄紫と対面。しかし栄紫には、強欲な文字辰が妾奉公へ出そうとしているお紺という恋人がいて…。果たして、お辻にとっての“お江戸みやげ”とは…。
人情の機微を描き、数々の名作を残した川口松太郎による、昭和36(1961)年初演の心温まる作品。性格の対照的なお辻とおゆうのやりとりが楽しく、お辻のほろ苦く淡い思いが心に沁み入ります。お辻を当り役とした七世中村芝翫の十年祭に相応しい人情物語を、ゆかりの出演者でお楽しみいただきます。
お辻 |
芝 翫 |
おゆう |
勘九郎 |
阪東栄紫 |
七之助 |
角兵衛獅子兄 |
中村福之助 |
角兵衛獅子弟 |
歌之助 |
小女 |
玉太郎 |
女中お長 |
梅 花 |
お紺 |
莟 玉 |
鳶頭六三郎 |
松 江 |
常磐津文字福 |
福 助 |
常磐津文字辰 |
東 蔵 |
幻想的で美しい清元の舞踊
須磨の浦に流されている公家の在原行平。華やかな都を離れた行平は、海女の松風と村雨という美しい姉妹と睦み合い暮らしています。今日も、心から慕う行平を慰めにやって来た松風と村雨。ところが行平は罪を赦され、都へ帰ることになっていました。別れを告げられぬまま、行平の出船の刻が訪れ…。
在原行平と海女の姉妹の悲恋が描かれる能「松風」をもとにした舞踊劇。行平が都を思い出す嘆きや、姉妹による行平を巡っての恋争いなど、美しくも哀感が漂う作品です。当月は行平が旅立っていくまでの上の巻の場面を、「行平名残の巻」と銘打ちご覧いただきます。本作や長唄『汐汲』をはじめとした松風舞踊で、松風を情緒豊かに表現した六世中村歌右衛門。二十年祭という節目に、ゆかりの出演者がそろい名女方を偲びます。
在原行平 |
梅 玉 |
海女村雨 |
児太郎 |
海女松風 |
魁 春 |
一、近江源氏先陣館(おうみげんじせんじんやかた)
盛綱陣屋
敵味方に分かれた兄弟の葛藤、親子の哀しき情愛
頼朝亡き後、源氏一族の争いに巻き込まれた近江国の名家、佐々木家。兄の盛綱と弟の高綱は、敵味方に分かれて戦うこととなります。盛綱の子息小三郎は幼いながらも初陣を飾り、高綱の子息小四郎を生け捕りにする大功を立てました。琵琶湖にほど近い盛綱の陣屋では、盛綱が母の微妙へ、囚われの身となった小四郎に切腹を勧めて欲しいと頼みます。そこへ高綱討死の報せが届くと…。
重厚な義太夫狂言『近江源氏先陣館』の八段目に当たり、盛綱が弟高綱の首実検をする件など、みどころにあふれる人気作。心ならずとも敵味方に分かれた兄弟の葛藤、親子の情愛のなかに、争いの非情さ、哀しさが描かれます。大坂の陣の真田信幸、幸村兄弟をモデルとしたドラマティックな物語、時代物の大作にご期待ください。
佐々木盛綱 |
幸四郎 |
高綱妻篝火 |
雀右衛門 |
和田兵衛秀盛 |
錦之助 |
盛綱妻早瀬 |
米 吉 |
信楽太郎 |
隼 人 |
高綱一子小四郎 |
丑之助 |
盛綱一子小三郎 |
亀三郎 |
北條の臣 |
吉之丞 |
北條の臣 |
宗之助 |
竹下孫八 |
廣太郎 |
古郡新左衛門 |
錦 吾 |
伊吹藤太 |
歌 昇 |
北條時政 |
又五郎 |
盛綱母微妙 |
歌 六 |
江戸の粋を魅せる、女伊達の凛々しくも可憐な舞踊
桜満開の新吉原仲之町に颯爽とやって来たのは、美しい女伊達。掴みかかる男伊達をあしらい、打ち負かします。そんな男勝りのお光は、恥じらいながら惚れた男のことを語り、江戸随一の男伊達の花川戸助六を真似てみせます。そこへ先ほどの男伊達が廓の若い者たちを引き連れ、お光に打ちかかるのですが…。
花川戸助六や幡随院長兵衛などで知られる俠客は、正義を貫き、義理と人情に厚い、江戸庶民の憧憬の的。女性の俠客は、「女伊達」と呼ばれていました。気風の良い女伊達に二人の男伊達が絡み、江戸っ子の威勢のよさと誇りを描く、長唄の人気舞踊です。鮮やかな所作ダテもみどころの、江戸の粋をお楽しみください。
木崎のお光 |
時 蔵 |
男伊達中之島鳴平 |
萬太郎 |
同 淀川の千蔵 |
種之助 |
四世鶴屋南北 作
東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)
四谷町伊右衛門浪宅の場
伊藤喜兵衛内の場
元の浪宅の場
本所砂村隠亡堀の場
運命に翻弄される男女、美しくも怖ろしい南北の大傑作
塩冶家の浪人・民谷伊右衛門は、妻のお岩を連れ戻された恨みから、舅の四谷左門を殺します。一方、お岩の妹・お袖に横恋慕する直助権兵衛は、お袖の許嫁の佐藤与茂七らしき人物を殺害。伊右衛門と直助は、犯人を知らない姉妹を騙し、仇を討ってやると約束しますが…。
四谷町にある伊右衛門の浪宅では、お岩が産後の病に苦しんでいます。しかし伊右衛門は、つれない態度で苦しむお岩を邪険に扱います。お岩は隣家の伊藤家から届いた薬を感謝しながら飲みますが、苦しみは増すばかり。それというのも、孫娘のお梅と伊右衛門を添わせようという伊藤喜兵衛の企みで、なんとその薬は毒薬だったのです。伊右衛門はそんなお岩を裏切り、お梅との縁談を承諾。面相も崩れていくお岩は、伊右衛門への恨みを募らせながら遂に息も絶え…。
『仮名手本忠臣蔵』の世界を背景にし、時代に翻弄される市井の人々の暮らしや、現代にも通じる人間の業が赤裸々に描かれる鶴屋南北の大傑作。今回はお岩の怖ろしさと、伊右衛門の色悪の魅力が際立つ、浪宅の場から隠亡堀の場を上演。微細な心理描写が味わい深く、怨念や恐怖を効果的に魅せる歌舞伎ならではの様式美あふれる怪談劇にご期待ください。
お岩/お花 |
玉三郎 |
直助権兵衛 |
松 緑 |
小仏小平/佐藤与茂七 |
橋之助 |
お梅 |
千之助 |
按摩宅悦 |
松之助 |
乳母おまき |
歌女之丞 |
伊藤喜兵衛 |
片岡亀蔵 |
後家お弓 |
萬次郎 |
民谷伊右衛門 |
仁左衛門 |